二択にしないという知恵
幼児教育の編集者ノート⑤
二択にしないという知恵
最近、ある言葉について考える機会がありました。
名古屋文化学園で80年以上受け継がれてきた
「学者半分、現場半分」
という言葉です。
大学院などで専門的な研究を重ねた先生から理論を学ぶ。
幼稚園や保育園、こども園で長年経験を積んだ先生から実践を学ぶ。
理論も大切。
実践も大切。
本校のパンフレットにも紹介されている教育の特色です。
私はこれまで、この言葉を「理論と実践の両方を学ぶ」という意味で受け止めていました。
もちろん、それは間違いではありません。
けれど最近になって、この言葉にはもう少し深い意味があるのではないかと思うようになりました。
それは、
「どちらか一方だけを正解にしない」
という姿勢です。
最近、何かと二択で語られることが増えたように感じます。
AIか人間か。
自由かルールか。
個性か集団か。
SNSを見ていても、「どちらが正しいか」という議論を目にする機会が増えました。
もちろん、物事を整理するためには二つに分けて考えることも必要です。
しかし、保育の現場にいると、世の中はそんなに単純ではないことに気づかされます。
元気いっぱい走り回ることが好きな子もいれば、じっくり観察することが好きな子もいます。
友だちの輪の中心にいることが楽しい子もいれば、少し離れたところから様子を見ることで安心する子もいます。
そして同じ子でも、その日によって違います。
だから保育者は、
「こちらが正しい」
と簡単には決めません。
目の前のこどもの姿を見ながら、
「今、この子にとって何が必要だろう」
と考え続けます。
名古屋文化学園の理念は
「バランスの取れた保育」
です。
自由だけでもない。
管理だけでもない。
見守るだけでもない。
教え込むだけでもない。
どちらか一方に偏るのではなく、その子にとって何が大切なのかを考える。
保育とは、そんな営みなのだと思います。
最近、私は少し気になることがあります。
それは、「すぐに答えを出したい」という気持ちが、以前より強くなっているように見えることです。
不安なときほど、人は分かりやすい答えを求めます。
早く安心したい。
すぐに結論がほしい。
白黒はっきりさせたい。
その気持ちはよく分かります。
けれど、人間の成長はそんなに単純ではありません。
こどもたちは、一人ひとり違います。
だから保育者は、決めつけません。
急いで答えを出しません。
目の前のこどもを見ながら、その子にとっての最善を考え続けます。
仏教には「中道」という考え方があります。
それは単に真ん中を取ることではなく、対立する二つを超えて、より広い視野から物事を見る知恵だといわれています。
どちらか一方だけを正解にしないこと。
相手の立場にも耳を傾けること。
そして、目の前の現実に合わせて考えること。
理論か実践か。
自由かルールか。
個性か集団か。
そのどちらかを選ぶのではなく、両方の価値を認めながら考えること。
実はそれこそが、名古屋文化学園が80年以上大切にしてきた学びの姿勢なのかもしれません。
二択にしないという知恵。
それは保育の世界だけでなく、変化の大きなこれからの時代を生きる私たちにとっても、大切な力なのではないでしょうか。
(企画広報室 松野)

















