先生になるぞ!

令和3年度 名古屋文化学園保育専門学校入学式 校長式辞

名古屋文化学園保育専門学校
令和3年度入学式 校長式辞
(令和3年4月1日)

 

 最初に、本日、本校に入学された、皆さん、お一人一人に「ご入学おめでとう」と、申し上げたいと思います。同時に、この幼児教育の世界にようこそ、と歓迎の意を表したいと思います。この幼児教育の世界は、他では味わうことのできない素晴らしい生き甲斐ややり甲斐をもたらせてくれる世界であります。日々、こどもたちの成長とともにする喜びは他では味わうことのできないものでありますし、こどもたちと一緒に成長していくことのできるかけがえのない世界でもあります。この素晴らしい世界を存分に味わっていただくよう期待したいと思います。

さて、皆さんは倉橋惣三という人を知っていますか。保育の世界ではつとに有名な人ですから、これから皆さんが保育を学んでいく上で、何度もその名前を聞くことになると思います。「そうぞう」の「そう」は「物」「ぶつ」という漢字の下に心を書く漢字、それに漢数字の三と書いて「そうぞう」と読みます。まず間違いなく保育の教科書のあちこちに名前の出てくる人です。

 明治15年(1882年)の生まれですから、明治、大正、昭和という時代に活躍した人で、フレーベルの提唱したキンダーガーデンを幼稚園と訳した人でもあり、日本の幼児教育の礎を創り上げた人です。

実は本学園の創設者である加藤カツ、私の祖母にあたる人ですが、倉橋の一番弟子として倉橋の活動に力を貸していた人です。昭和28年には倉橋自身がこの名古屋文化幼稚園を訪問してくれていろいろと直接の指導を受けたという話も伝わっています

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今日はそんな倉橋の膨大な著作の中から一つお話ししたいと思います。友人にあかちゃんが誕生したということで、倉橋がお祝いに駆けつけます。倉橋はその友人と奥さんに向かって「この度はお二人の誕生おめでとうございます」と言います。友人は「先生、何を誤解しているのですか。生まれたのはこの女の子一人で双子ではありませんよ」と。

倉橋は「もちろんわかっていますよ。新しくこの世に生を受けたのはこの可愛い女の子一人ですね。でもこの子が生まれると同時に母が生まれたのです。」「奥様は今まで人間であり女性であった。でもこの可愛い子が生まれた瞬間に母になった。」「ですから、私は、あかちゃんと母、その2人の誕生をお祝いしたてのです」と述べます。

倉橋は続けます。「『母が子を産む』とはよく言われることですが、実は正しくない。こどもが産まれる以前はその人は母ではなかったのですから。『子が母を産む』とはどうも逆説的な言い方ではありますが、それが正しい。こどもは自分が生を受けることによって、その女性を母にする『母を産む訳です』」というお話です。

 意外だと思われる人も多いと思います。『母が子を産む』『お母さんが私を産んでくれた』という言葉に違和感はありませんが、『私が母を産んだ』という言い方にはとても違和感があります。でも倉橋はそれが正しいと言うのです。そこには倉橋がこどもを中心に物事を考えるという思想があるのです。

 また「母が子を成長させる」と言います。お母さんの愛情に包まれてこどもが育つというのはたいへんに素晴らしいことですが、同時に「子が母を成長させる」というのも事実だ、と倉橋は言います。母そのものを成長させていくのは子であり、我が子を愛することから母は成長していけるのです、と述べています。

では、お話をみなさんにもどしましょう。皆さんは、今、本校に入学されました。将来、幼稚園の先生、保育園の先生、こども園の先生になろうとして本校に入学されました。全員の方がその望みを叶えて先生になっていくものと思いますが、しかし残念ですが、私は、皆さんを先生にすることはできません。この学校は皆さんを先生にすることはできないのです。

無論、この学校を卒業すると資格を取得することができます。幼稚園教諭免許状、保育士資格、専門士称号という資格を皆さんに与えることができます。これらの資格には、本校の名前や私の名前が記載されているでしょう。これらの資格は、皆さんが、日本国中、どこに行ってもどの園でもこどもたちの前に立つことを保証する資格です。ですが、それは単なる「資格」であり、みなさんは単に「資格を持った人」にしか過ぎません。

では、皆さんを先生にするのは誰か。

それはこどもたちです。私やこの学校ではなくこどもたちなのです。資格を取り、こどもたちの前に立って、初めて先生になるのです。先生がいるからこどもたちがいるのではありません。そこにこどもたちがいるから皆さんは先生になれるのです。

先ほどの倉橋の話に合わせると、こどもが母を産むことが正しくて、こどもが先生を産むのが正しいのです。こどもたちが幼稚園に入園してきて、自分のクラスで先生を待っている。20人のこどもたちがクラスでひとかたまりになって先生を待っている。そして、その教室に入っていくのはあなたたちです。こどもがそこにいてくれるから、皆さんは先生になれるのです。

ですから、皆さん、こどもたちとの出会いを大切にしてください。本校はいろいろな養成校の中で最も実習を大切にする学校です。特に、総合こどもコース、国際こどもコース、長期履修コースなどの昼間部では、隣接の名古屋文化幼稚園に何度もいくことになります。その度に皆さんはこどもたちから先生と呼ばれることでしよう。こどもたちと接する度に、こどもたちから先生と呼ばれる度に、皆さんはホンモノの先生への道を駆け上がっているのです。こどもたちとの接点を大切にしてください。

しかし、無論、それは教室での勉強をないがしろにしていいという意味ではありません。教室で学ぶこととこどもたちから学ぶことを両輪のようにして前進していっていただきたい、その二つを両手のようにして取り組んでいってもらいたいと思うのです、教室で知識を得て、その知識を下敷きにしてこどもたちと接して実践を知る、その積み重ねを経て、先生への道を進んでいってもらいたいのです。

本校の教室で勉強を続ければ資格を取ることはできます、でも、それは単に「資格を持つ人」になるだけのことで、先生となる訳ではありません。皆さんはこどもたちとの接点の中から保育の実際を学び、こどもたちに先生に育ててもらってください。

 私は、ここにいる総ての方が、与えられた2年あるいは3年間を前向きに過ごしていただきたいと思います。ここにいるすべての方が、素晴らしい保育者に、立派な社会人に育っていただくことを節に希望して、そして、その短い、私は敢えて、短い時間と申しますが、その短い時間を経た後に、素晴らしい先生となって本校を巣立っていかれることを節に念願して、私の、本日の、式辞といたします。

 

 

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